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失敗。
失敗はだれにでもある。

わたしもたくさんする。

失敗。

だからわたしは神様のことを恨んだりしない。
ほんのちいさなミス。
よくあること。

神様だって失敗をする。
時として。

だから。


夕焼けの空の色が、
本当の空の色だったら、なんて。

そんな歌が昔あったきがする。
だれの歌かはおぼえてない。

わたしも思う。
もしも、ほんとうに”そう”だったらなあって。

でも、わたしは知ってる。
そんなのはただの願望でしかないんだ。

だってわたしの知ってる空は、
いつだって酷く荒んでる。



夕焼けなんて、まがい物だから。



おおきな、おおきなクリーム色のタオルケット。

妹とよく一緒にくるまってた。

まだちっちゃかった頃。

5歳くらいかな。

そのタオルケットがわたしは大好きで。

それが私の体を覆い隠せなくなった頃、私は感じたんだ。

ああ、妹と私はちがうんだなって。

年の差、じゃない。

もっと大きな、大きな違い。


わたしはどんどん妹と違うかたちになっていく。

わたしの知らない形に。

わたしは、その変化を受け入れようとした。

それがどういうことなのか、分からないほど馬鹿じゃないから。

だから、受け入れようとしたんだ。

この体が妹のそれとは違うっていう事を。


髪を短く切って、男の子の格好をした。

家族や隣人はわたしにそれを望んだし、そうする事が正しい事だとわたしも思った。


でもね、なんだか、変な感じ。

だって、なんか、ね。

間違って別の瓶に詰められちゃったイチゴジャムみたいな。

そんな気持ち。



そっちじゃないよ。




神様のした小さなまちがい。



間違ってるのは、わたしの「こころ」のほう。


そう思って。

そう思ったから。

だからがんばったけど、やっぱりうまくはいかなくて。

がんばったんだけどなあ。




まちがったいきもの。



人は、わたしをそう呼んだ。



知ってるよ。

知ってるってば。

わたしは、知ってるから。


何度も何度も何度も何度も何度も。


まちがいを正すのは、楽しい。

きっと楽しいんだ。

楽しいんだろうなあって。

そう思った。

だから皆はわたしに指を向けて、何度も何度も何度も間違いだと言ったんだ。


わたしは間違ったいきもの。

その事はわたしが一番よくわかってて。



ちぐはぐなこころとからだ。

どんどん、どんどんちぐはぐになっていく。



わたしの場所はどこにもない。

わたし自身の肉体も。

「わたしのいていい場所」じゃない。

この入れ物に収まるべきだった「それ」は「わたし」じゃない別の何か。

場違いで、見当違いなわたし。




背後のドアが、不意にぱたんと閉じる。

その音はとても乾いてて。

だから涙は、いらない。






逃げ込んだ架空の街で、ひとりの男の子に出会った。

彼はどことなくわたしに似てて。

彼にも居場所がなくて。

だからわたしは彼に「いていいよ」って言った。

わたしとそっくりな「それ」に居場所を与えてあげたいだなんて思ったのは、
きっとわたしの傲慢さ故のことなんだと思う。

でも。

彼は、わたしの与えたその場所を喜んでくれた。

望んでくれた。

嬉しかった。

そんな風に、望まれた事なかったから。

ああ、必要とされるのって、こんな気持ちなんだなって。



彼はわたしに会いたいって言った。

わたしはそれをもちろん拒んだ。

だって、現実のわたしはやっぱり間違ってるから。

間違った形のわたしを、彼は多分拒むだろうな。

そう思った。

だから、嘘をついた。

ついた嘘を守り抜くために、もう一つ別の嘘をつく。

そうして彼につく嘘が増えていった。


嘘をつくのは苦しい。

大好きな人に嘘をつくのは。

とても、とても苦しい。

苦しくて、苦しくて。

だからわたしはある日彼に打ち明けた。

わたしの全てを。



当然彼は戸惑った。

しばらくわけの分からない問答を繰り返した気がする。

そんなやり取りの最後に彼が言った。



なにも変わらない、と。

今までも、これからも、僕の一番大事なひとだ、と。



そして、気付いた。

そこは彼にとって「いていい場所」であると同時に、

私にとっても「いていい場所」なんだってこと。

なんだか嬉しくて。

なんだか楽しくて。

とても、とても素直に。

わたしはわたしとして。

嬉しくて。



楽園。



0と1の世界に築かれたそれ。

そこにだけある、わたしの居場所。

なんだかおかしな話。

わたしのいていい場所は架空の世界だけ。


でも、そんなのもうどうでもよかった。


そこでなら、わたしは誰かにとって必要なわたしになれる。

その事だけで十分だった。


手で触れられないけど、

声を聞くこともできないけど、


そこに「確かにある」



17インチの楽園。





だけど。



その終わりは案外呆気なかった。

ちょっとした事。

魔法は、種がばれたらもう終わり。

手品を上手に出来るほど、私は器用じゃないから。

「まちがった生き物」

わたしに向けられる、声。

それは瞬く間に、その世界にひろがった。

ああ、そうだ。

そうだったね。

すっかり忘れてたよ。

わたしは、最初から存在が間違ってたんだった。



噂は広がる。

どんどん広がる。



わたしの居場所。

彼の居場所。

彼も。

彼は。


わたしに向けられる断罪の声は、

わたしの横にいる彼にも降り注ぐ。



彼が今までこの世界で築き上げてきた居場所。

わたしの横にいることで、彼のそれすら崩れ去る。

必死でわたしを庇おうとする彼。

そうするほどに増す、彼への罵りの声。


みしりと音を立てる船。


だめだよ。


わたしのために「間違い」をしないで。


真ん中から二つに割れて。


あなたは、いていいんだよ。


けれど、彼はわたしの忠告を聞こうとしない。



崩れようとする船。

今ならまだ。

彼を。

彼は。

あっち側へ。





わたしは「間違いのわたし」を断罪する。

そもそものはじめから間違いだった。



消されるべき黒い"しみ"。

消えるよ。

消えるから。

血が出てきて。

かみさま。

どんどん、どんどん出てきて。

次はどうか。

不思議と痛くはなくて。

どうか、まちがえないで。



顔も知らない彼の事が思い浮かぶ。



ごめんね。


わたしのいていい場所。


ごめんなさい。


思い出は全部17インチの平面世界の中で。


ありがとう。


きっと出会えた事が奇跡だから。


かみさまをわたしは恨まない。


いつかまた。


ばいばい。
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